気管支喘息②〜治療について

当ブログでは医療情報の発信を行なっています。正確に病気についての知識を持ってもらうことで、より一層しっかり治療に取り組んでいただくことが、健康への近道であると考えています。

今回は気管支喘息の2つめで、治療についてお話しいたします。喘息は大変ありふれた病気ですが、専門医と非専門医によって診断や治療に大きな差が出る分野です。喘息でお困りの患者さんは是非ご一読ください。

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気管支喘息の1つ目の記事(気管支喘息①〜病気について、診断について)はこちら

治療の考え方と目標①(イメージ)

気管支喘息は「気管支の炎症」であると前回お話ししました。「炎」ということで、火事に例えてみます。

入院が必要なレベルの喘息発作は、大火事です。これを消火するためには強い消化剤が必要です。喘息で言えば飲み薬や点滴のステロイドになります。これを飲んでいれば(点滴していれば)発作はほぼ止められますが、ずっと続けてしまうと体に負担がかかります。長くても2週間程度で中止することがほとんどです。

では「季節の変わり目や大掃除をした後、カゼを引いた後なのに発作や咳が出る」という方はというと、これは大火事とまでは言えないまでも火種がくすぶっている状況と言えます。これをそのまま放置してしまうと、炎症がジクジクと続いているということになりますので、リモデリングが進んでしまう(気管支が少しずつ細くなりそのまま硬くなってしまう。詳しくはひとつ前のブログ参照)ということになります。こうなってから治療を開始しても、息苦しさを完全に取ることは難しいのです。今のように喘息治療が進んでいなかった頃からの喘息をお持ちの高齢の患者さんでは常に肺からヒューヒューという音がする方が少なくないです。

この火種をしっかり抑えつける(コントロールをする)ために最も大切な治療は吸入です。吸入をすることで肺の炎症をしっかり抑えることができます。吸入だけでは不十分な場合はアレルギーを抑える飲み薬を追加します。しかし、あくまでも治療の根幹は吸入です。

患者さんの生活の中で気をつけていただきたいことは、この火種に油を注いでしまうことを避けてもらうということです。具体的には一番大切なことは禁煙です。これは火種にガソリンをまいているのに等しいことです。受動喫煙(家の中でご家族が吸っている)も同じです。また、家の中はキレイに保つ方が良いのですが、大掃除などはホコリを吸い込むことがありますので、どうしてもご自身がしないといけない場合はマスクをつけてやる方が望ましいです。仕事によって(例えば粉塵の舞う職場や、冷凍庫などの外気と温度差のある倉庫内での作業など)発作が出てしまう場合は、可能であればなるべく職場での配置を調整いただく方が望ましいです。必要であれば当院から診断書もお渡しできます。

治療の考え方と目標(具体的に)

繰り返しになりますが、火種を抑えつける=「仮に花粉症の季節になろうが、大掃除をしてホコリを吸い込もうが、カゼをひこうが、喘息の発作は起こりませんでした」という状況にまでしっかりと治療をする、ということです。

患者さん一人一人の症状や検査結果に合わせて、治療を強化したり、薬を減らしたりするのですが、この際に、治療の強化(薬の追加)は一足飛びに行います。上記のような「何が起こっても喘息発作は出ない」ような状況にまでしっかりコントロールするために、少しでも症状が残っていたら躊躇せずに薬を追加していきます。

そして、一切の症状が出ない状況になったら、そのままの投薬で半年〜1年は継続します。(患者さんの希望も含めて、状況次第で最短3ヶ月で減薬する場合もありますが、花粉症やその他のアレルギーの状況も踏まえて1年以上継続する場合もあります)。

その半年〜1年で一切発作が出ないことを確認できれば、薬を1つずつ減らします。じっくりと気長な治療が必要なのです。大変と思われるかもしれませんが、長い目で見た影響を考えると、しっかりとコントロールをする方が良いと思われます。

ただしお子さんについては年齢によって少し戦略が異なってきます。具体的には大人より飲み薬の重要性が高く、薬を減らす際も大人より早いスピードで減量を試みることが多いです。

実際の治療について①

吸入には色々なタイプがありますが、一番大切なのは吸入ステロイド(ICS)です。ステロイドと聞くと良くない印象を持たれる方もいるかもしれませんが、あくまで吸入なので全身への影響(副作用)は基本的には無いと考えていただいて大丈夫です。

実際には吸入ステロイドに気管支拡張薬(LABA)が合わさった吸入薬(例:シムビコート、レルベアなど)で治療を開始することがほとんどです。

それで効果不十分であれば、抗アレルギー薬の飲み薬を追加します。ロイコトリエン拮抗薬(例:キプレスなど)や、抗ヒスタミン薬(例:デザレックスなど)です。花粉症などのアレルギーをお持ちの方や、ペットを飼っている方、また喘息の程度次第では、最初からこれらを飲んでもらうことも多いです。

さらに効果不十分であれば、吸入の回数を増やしたり、LAMAという追加の効果を得られる吸入(例:テリルジーなど)に変えたり、点鼻(鼻のスプレー)を追加したりします。

薬を増やすと言うと、薬の副作用についてご心配になられる方もおられますが、基本的にほとんど心配いりません。一部の抗ヒスタミンは眠くなるものもありますが、効果と副作用の兼ね合いを患者さんと相談しつつ調整します。また、高齢男性で前立腺肥大がある方はLAMAによって尿が出にくくなる方が稀におられます。そのあたりも患者さんと相談しながら調整します。

※テオフィリンという薬(例:テオドールなど)は一昔前はよく使われていましたが、副作用が多いこともあり、最近では使わないケースも多いです。ただし長年使ってこられて、これがないとダメという方もおられるので、全く使わないわけではありません。

※サルタノールやメプチンは、吸入は吸入でも「リリーバー(SABA)」といわれるタイプの吸入です。これは一時的に呼吸が楽になるのですが、長期的なコントロール(火消し)の効果は全くありません。いわば一時しのぎでしかないのです。治療の目標は「ここ最近サルタノール(やメプチン)は全く使っていません」と言えるまでコントロールをしっかりつけることです。

重症度に応じた喘息治療。ガイドラインより抜粋。

実際の治療について②(重症喘息の方)

ICS、LABA、LAMA、抗アレルギー薬の内服、さらには点鼻をしてもまだコントロールが不十分という方もおられます(全喘息患者さんの10%弱)。

従来そういう方には内服のステロイドを継続的に飲んでいただくことで治療をするしか手がありませんでした。しかし、内服ステロイドを長期に渡って飲むことは、吸入と違って多くの副作用を覚悟する必要があります(具体的には糖尿病や高血圧、高コレステロールが出現したり、骨粗鬆症、免疫低下など命に関わるものも)。もちろん、ステロイドでないと抑えられない病気もたくさんあります(自己免疫性疾患など)し、ステロイドは我々内科医にとっては大変重要で欠かせない薬ではありますが、やはりその副作用の多さが問題になることも多く経験するところでした。

近年、そういう重症喘息の方には生物学的製剤と言われる注射の薬(ゾレアなど)が使われるようになりました。これは強力に喘息などのアレルギーを抑えてくれる治療で、これまでどうしてもステロイド内服をしないと抑えられなかったような重症喘息の方でも、かなりの割合でステロイドを使わなくても済むようになった画期的な薬です。

当院ではこの注射治療も行なっています。

実際の治療について③(吸入のコツ)

吸入をする際にはいくつかのコツがあります。当院では実際の機器を用いた吸入の指導も行なっていますが、この吸入の仕方によって効果や副作用の出方が変わってきます。

例えば吸入を吸いこんだ後、5~10秒ほど息を止めてフーッと吐き出します。その際、口から吐くのではなく、鼻から吐いた方が良いです。これは、吸入の成分を少し鼻にも効かせたいというのが目的です。近年の喘息治療の一つのキーワードが「One airway(一つの気道)」というもので、これは鼻も気道の一部=鼻の治療が喘息コントロールにおいて重要という意味です。よって、点鼻治療の前にまずは吸入を鼻から吐いてみることをお勧めしています。

さらに、吸入ステロイドは全身への影響(副作用)はあまり気にする必要がないのですが、口の中に残ってしまうと、カンジダと言われるカビが生えてしまうことがあります。これを予防するために、吸入の後には必ずうがいをするように指導されるかと思います。

ここでイメージしてほしいのですが、乾いた机に小麦粉をこぼして濡れ雑巾で拭っても白く残る感じが想像できるかと思います。一方、最初から机が濡れていれば、より綺麗に粉が拭き取れると思います。吸入も目に見えない細かい粉ですので(例外はありますが)、最初から口の中が濡れている方がより綺麗になるのです。つまり、まず口をゆすいで、その後に吸入、そして最後にもう一度うがいをする方が、よりカンジダが生えにくくなります。

これらは当院で行なっている吸入指導の一例ですが、これ以外にも患者さんの状態に応じて吸入の種類の選択や吸入の仕方を細かく調整しています。

まとめ

気管支喘息の治療についてお話しいたしました。

実際、本来の治療期間より短く治療終了・中断してしまっている方や、そもそもまだ症状が残っているのに治療の強化がなされずに不十分なコントロールで喘息に苦しんでいる方を数多くみてきました。

患者さんご自身でも喘息治療の目標やプランをご理解いただき、正しい知識と共にしっかり治療に取り組むことが、より良い喘息治療につながります。喘息でお困りの患者さんは是非一度当院でご相談ください。