症状から探す:胸の痛み(胸痛)

当ブログでは、患者さんのお困りの症状から、どのような病気が考えられるかについての情報発信を行っております。 今回は胸の痛みについてお話しいたします。

大まかな原因の分類

胸の痛みを起こす原因は様々ですが、大きく分けると

  • 心臓
  • 血管
  • 呼吸器(肺、胸膜)
  • 整形:骨・筋肉・神経・胸壁(乳腺、帯状疱疹)
  • 消化器(胃、食道、胆のう・肝臓)
  • 精神的ストレス

があげられます。命に関わるものから、あまり心配のいらないものまで様々です。

色んな原因がありますが、どんなときに、どんな痛みがあるかによって原因が絞られ、お勧めする検査が異なってきます。胸の痛みでお困りの方は、お気軽に一度ご相談ください。

どんな病気が考えられるか、一つ一つ解説していきます。

心臓

・狭心症、心筋梗塞

心臓は1分間に5Lもの血液を全身に送る、ポンプのような臓器です。しかし、心臓そのものを動かしているのは、心臓を取り囲む冠動脈という細い血管が3本あるだけなのです。1本でも詰まると命に関わります。

この冠動脈が動脈硬化で狭くなると、心臓が痛みを感じるようになります。特に運動や階段を登るときに胸痛を感じやすくなります。

安静にすることで回復すれば狭心症。完全に冠動脈が閉塞してしまい、胸痛が30分以上続けば心筋梗塞と言います。

心筋梗塞は命に関わる病気のため、心筋梗塞になる一歩手前の狭心症の状態で治療をすることが重要です。

またそもそも狭心症にならないように、脂質異常症や高血圧、糖尿病などを治療し、禁煙をすることが予防医療として大変重要になります。健診で異常を指摘された方は、無症状だからと言って無治療のまま放置せず、一度ご相談ください。

心電図や血液検査を行いますが、狭心症の場合はいずれの検査でもひっかからないことも多く、狭心症の可能性が高ければ専門病院へご紹介させていただきます。

なお、動いたときではなく、朝方に冠動脈が狭くなって胸痛が生じるタイプの狭心症(異型狭心症)もあります。朝方の胸痛も、一度ご相談ください。

・心筋炎、心膜炎

まれに感冒(ウイルス感染)に伴い、心筋や心膜に炎症を起こすことがあります。胸痛発症前に発熱や咳などの症状があり、心電図で特徴的な変化があります。

血管

・大動脈解離

これも心筋梗塞と同じく、高血圧や脂質異常症、糖尿病などのもともと動脈硬化のリスクがある方が発症しやすいです。急に背中や胸の痛みがでたときに考えます。命に関わるだけではなく、1秒を争う病気ですので、突然背中から胸に激痛が走って治まらない場合は救急医療機関の受診をおすすめします。

・肺塞栓症

エコノミークラス症候群とも呼びます。長時間座っていると足の血流が悪くなり、足の静脈に血栓ができます。その後動き出した際にその血栓が肺の血管に詰まることで発症します。飛行機内やお正月、骨折後などに起こりやすいです。

呼吸器(肺、胸膜)

実は肺は痛みを感じません。肺を包む胸膜に何かが起これば痛みが生じます。

・気胸

肺(と胸膜)に穴があき、肺から空気漏れが生じる病気です。特に肺の病気になったことがない方に起こる気胸を自然気胸と言います。やせ型高身長の若い男性に起こりやすいです。喫煙していた方、肺気腫や間質性肺炎などの基礎疾患がある方にも起こりやすいです。

穴が小さく、空気漏れも少ない場合は自然治癒に期待できますが、穴が大きく空気漏れが多いと、肺のふくらみが悪くなりますので、空気漏れを外に出す治療(ドレナージ治療)が必要になります。その場合、入院が必要となりますので、近隣病院へご紹介させていただきます。

気胸の画像です

・胸膜炎、膿胸

肺をつつむ胸膜に炎症がおこると胸痛を感じます。多くは肺炎が重症化して起こります。発熱を伴い、深呼吸をしたときに痛みを感じるのが特徴です。ウイルス性や細菌性があり、原因によって抗生剤治療などを行います。炎症が強い場合は、膿がたまる膿胸という病気まで悪化することがあります。体の外へ膿を出さないと治りにくいため、入院でのドレナージ治療が必要になります。

・肺癌

肺の中だけでは痛みを感じませんが、肺癌が大きくなって胸膜や肋骨に浸潤すれば痛みを感じるようになります。

整形(骨・筋肉・神経)

明らかなケガをきっかけとした場合は分かりやすいですね。それ以外でも咳で肋骨骨折を起こすことは良くあります。鎮痛剤や安静で良くなるのを見ることが基本です。

また、肋軟骨炎肋間神経痛などもよくある胸の痛みの原因です。

肋間神経の痛みで注意が必要なのは、帯状疱疹です。

背中から胸にかけて、片側に赤いぶつぶつ、水膨れなどがあり、びりびりとした痛みがあれば典型的です。痛みから始まり、皮疹が遅れて出てくることも多く、他の疾患だと思っていたら、ぶつぶつが出て帯状疱疹だったとわかることもよくあります。

抗ウイルス薬の治療が遅れると神経痛が残存することも多く、気になる症状がある方は一度ご相談ください。

なお、帯状疱疹の発症を予防するワクチンが近年開発され、当院でも実施しておりますので、ご興味のある方はお声がけください。

若い方やお子さんに時折あるのは前胸部劇痛症候群と言われる、胸の真ん中あたりに突然強い痛みが生じ、30秒〜3分程度で勝手に良くなる病気です。一応各種検査を行い、何も引っかからない場合に診断します。特に治療は必要なく、加齢と共に勝手に起こらなくなります。

消化器

肝臓や胆のうの痛みは右の脇腹あたりということが多いですが、人によっては右胸の痛みと感じることがあります。胆石による痛みは脂っこいものを食べた後に起こりやすいです。

肝臓はなかなか痛みを感じにくい臓器ですが、まれに感染症や肝炎などで痛みを自覚することがあります。

精神的ストレス

強いストレスがあると動悸がしたり、胸の痛みを感じる心身症となることがあります。

ストレスをなくすことが治療になりますが、上にあげた内科的な疾患の可能性がないかを確認して診断となります。症状のある方は一度ご相談ください。

まとめ

今回は胸痛を起こす原因をお話しました。

狭心症や心筋梗塞、肺癌など治療を要する疾患から、肋間神経痛などの怖くない疾患まで本当にたくさんの原因が考えられます。患者さんそれぞれの症状からおすすめする検査を考え、適切な治療を行う必要があります。

症状でお困りの方は一度ご相談ください。